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大阪簡易裁判所 昭和60年(ハ)5573号 判決

原告

三洋電機クレジット株式会社

右代表者代表取締役

荒田宗翁

右訴訟代理人支配人

都築清

森本秀男

右訴訟代理人

三好嘉雄

佐藤博司

被告

三好登美子

右訴訟代理人弁護士

加藤成一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一四万六、四一〇円および内金一一万五、四七五円に対する昭和五八年一〇月三日から完済まで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は訴外三好衛(以下訴外人という)と訴外株式会社ファミイ丸屋(以下加盟店という)との間で、昭和五七年八月一〇日、左記要旨の契約を締結した。

(1) 原告は訴外人が加盟店から昭和五七年八月一〇日購入したふとんの代金一六万八、四〇〇円を訴外人の委託に基づき加盟店に立替払をする。

(2) 訴外人は右立替金と立替手数料金四万八、四九九円合計金二一万六、八九九円を次のとおり原告に割賦返済する。

(イ) 返済方法

昭和五七年九月から同六〇年八月まで毎月三日限り金六、〇〇〇円宛(但し第一回目は金六、八九九円)。

(ロ) 特約

分割返済を遅延し、催告を受けたにもかかわらず指定期日までに支払わなかつたときは、期限の利益を失い、残額を一時に支払う。約定遅延損害金は年二九・二パーセントの割合とする。

2  原告は昭和五七年八月末日、加盟店に金一六万八、四〇〇円を立替払いした。

3  訴外人は昭和五八年七月二五日までに金六万七、七九九円支払つたが、その後支払をしないので、原告は訴外人に対し、昭和五八年九月一〇日到達の書面をもつて、書面到達後二〇日以内に延滞金を支払うよう催告したが、訴外人は右期間内にその支払をしなかつたので、昭和五八年九月三〇日の経過により期限の利益を喪失した。

4  被告は本件契約締結当時、訴外人の妻であり、本件商品の購入についても関与しており、民法七六一条の準用により、連帯責任を免れることはできない。

5  よつて、原告は被告に対し、本件立替金等残金一四万九、一〇〇円から期日未到来の手数料金二、六九〇円を控除した金一四万六、四一〇円および内金一一万五、四七五円に対する期限後である昭和五八年一〇月三日から完済まで約定の年二九・二パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて争う。

三  被告の主張

本件立替金は次の理由により、民法七六一条の日常家事債務に該当しない。

1  被告と訴外人とは、訴外人の理不尽な暴力により婚姻関係が破綻し、昭和五六年四月より別居しており、本件契約当時夫婦間の共同の家事は存在せず、本件ふとんの購入は訴外人がその責任において購入し、使用していたものであり、被告はその購入について全く関知しておらず、使用したこともない。

2  仮に、被告が本件契約当時訴外人と同居していたとしても、本件ふとんは極めて高価であり、当時無職で無収入の被告には、日常性を具有するものとは到底いえず、日常家事の範囲外である。

3  仮に、被告が本件契約当時訴外人と同居していたとしても、被告は本件ふとん購入に反対の意思を表示していたことは原告もこれを認めている。従つて、被告について民法七六一条本文の適用はない。さらに被告が購入に反対したことは、第三者に対し、責に任じない旨を予告したものとして、同法七六一条但書が適用されると解すべきである。

4  民法七六一条は妻が日常家事に関する債務を負つた場合に、通常収入のある夫にその支払をさせる趣旨である。しかるに本件では夫の債務を妻に支払わせようとするものであり、民法七六一条の趣旨に反し、同条の適用はない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一〈証拠〉によると、請求原因1ないし3の事実を認めることができる。

二原告は、訴外人の本件契約は日常家事債務であるから当時訴外人の妻であつた被告はその連帯責任があると主張し、被告はこれを争うので判断する。

1  まず、被告は、被告と訴外人は訴外人の理不尽な暴力により婚姻関係が破綻し、昭和五六年四月より別居しており、本件ふとんは訴外人が別居中に訴外人の責任において購入したものであると主張している。そして、被告本人尋問の結果中には右主張に沿う供述部分が存するが、〈証拠〉を総合すると、訴外人は昭和五四年一月に被告と結婚し、そのころから同年八月に長女が出生したころは、まじめに働いていたものの、その後仕事を転々とするようになり、交通事故にあつて入院したころから、仕事はせず、酒を飲むと妻に暴力をふるうようになつたことは認められるが、ある時期は別居したとしても、完全に別居したとは認められず、本件ふとんの購入、本件立替払契約等が訴外人の別居中の契約であると断定するには、なお疑問の余地がある。そして、〈証拠〉中、右主張に沿う供述部分は措信できない。

2 そこで、百歩譲つて、本件ふとんの購入、本件立替払契約時に被告は訴外人と同居していたとしても、〈証拠〉によると、当時訴外人は仕事をせず、被告は当初は独身時代の貯金で生活をしていたが、その後は実家や兄弟の援助で生活をしていたことが認められ、本件立替金等合計金二一万六、八九九円は、被告夫婦にとつて多額であり、〈証拠〉によると、被告は本件契約段階からふとん購入に反対していたことが認められ、このことを考え併せると、本件ふとん購入、本件立替払契約は被告の家族の共同生活に通常必要とするものではなく、右各契約は日常の家事の範囲を逸脱したものというべきである。そうすると、請求原因4は理由がない。

3  よつて、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官北村 茂)

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